東京二期会『イオランタ』出演を記念し、2008年「にっぽん丸」でのヨーロッパ周遊中、加藤昌則さんとサンプトペテルブルクを訪れた際に綴った日記の一部を公開いたします。
<中編>
5月27日(火) 37日目 晴れのち曇り、時々雨 サンクトペテルブルク
martedi 27 maggio bel tempo, in seguito nuvoloso e pioggiafine
本来なら、ここで船に戻って昼寝したい、いや、しなくてはならない程に疲弊しきっていたのだが、我々の心に誓った任務がそれを許さなかった。そう、大作曲家、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーのお墓参りである。
チャイコフスキーのお墓は、サンクトペテルブルクの中心から歩いて行けなくもないが、かなり厳しいだろう。タクシーは交渉制らしくロシア語ができないとまず利用不可能、ホテルで呼んでくれるタクシーは安心でもかなり高額らしい。となると、残された手段は地下鉄である。
ミラノで初めて地下鉄に乗ったときもかなり緊張したが、今日の緊張はその比ではなかった。サンクトペテルブルクで地下鉄に乗るためには、まずジェトンなる乗車券代わりの硬貨を購入する。1枚17ルーブルで、私たちは4枚購入するために100ルーブル渡したのだが、お釣りを2ルーブルしか渡してもらえなかった(30ルーブル足りない)。文句が言えなかった理由は、ジェトン購入前に改札で写真撮影をしたのだが、どうやら地下鉄は構内も含めてなぜか写真撮影禁止だったらしく、いかついオジサンが知らぬ間に私の横に立っていて、唐突にポンポンと私のカメラをつついたのだ。基本的にムッツリしているロシア人が、あきらかに不機嫌な顔で。これにはかなりビビった。というわけで腰が引けてしまったのだ。
改札をくぐると、ほとんどの駅で長い長いエスカレータに乗る。地盤が緩いから深くせざるを得ないとの説明だったが「シェルターじゃないの?」と言いたくなるほどその深さは尋常ではない。一つの例だが、エスカレーターに乗って降りるまで、2分27秒かかった駅があった。しかもエスカレータのスピードは、日本なら「いくぶん速度が速くなっております…」のアナウンスが流れる東横線のエスカレータの1.5倍は速いと思った。それで約2分半だから、一体何メートルもぐったのだろう。
ロシア語は見ても聞いても理解不能。英語もほとんど通じない。たまに通じても、ロシア人の英語は、なんだか聞き取りにくかった(もちろん上手な人もいた)。さらにスリには細心の注意を払うようにと指導されていたし、空気が汚れていてむせてしまうし、地下鉄に乗る前に叱られたし、お釣りはもらえなかったし、ロシア人は怒っているようにしか見えないし…とにかく全てが恐怖の要因となって、私たちの疲労はどんどんと蓄積されていく。