2021.2.28 八幡浜市民活動文化センター ホール
【1部】世界の名曲
・花
・からたちの花
・アレルヤ
・楽に寄す
・私の歌
・貴種流離譚
・桜の背丈を追い越して 他
【2部】オペラ「奥様は女中⁉︎」(日本語訳詞上演)
東京は数百人単位で感染者が出たという、気が滅入るような報道が毎日のように続いていた頃、私の故郷・八幡浜でもどうやら感染者が一人出たらしい、という情報がSNS上で飛び交っていた。こちらが麻痺しているのか、それともあちらが過敏すぎるのか、正解はだれも分からないことだが、その反応の温度差に戸惑いを覚えた。
八幡浜での公演の話が進んでいたのはまさにこの頃で、私は本当に故郷に戻ってよいのかとても悩んだ。愛媛に限ったことではないが、県外、県内と感染者を区別していたことを知っていたからである。その情報は私が帰省することに後ろめたさを抱かせた。
しかし求められる以上、万全の対策をもってその職務を全うしようと考えたのは、故郷の皆様の熱意を感じたからである。「何としてもこの公演を成功させたい」という思いを受け取り、私の心は前向きになることができた。
鵜木絵里さん、髙田恵子さん、そして長谷川初範さんと、いつも一緒に活動している自慢の仲間を、私はいつか八幡浜にお連れしたいと願っていた。彼らはたった二日間の滞在にもかかわらず、八幡浜を満喫し、心から楽しんでくれたようだ。それはホールスタッフの皆様のあたたかなおもてなしと、故郷の皆様の歓迎の想いが伝わったからであろう。
はっきり言って、私の両親ですらオペラなんてまるっきり分からない。そんな環境でオペラの面白さを伝えるのは簡単ではない。私たちはいつも以上に稽古を重ね、少しでも楽しんでいただけるように工夫を凝らした。かの名優、長谷川初範さんが八幡浜弁の代表格「おーれやのー」を連発していたのも、私たちがこの公演に向けて濃密な時間を過ごしたことの証と言えよう。
ホールスタッフの皆さんは、私の顔写真や、出演者全員の顔写真をデザインした缶バッヂをつけていた。正直「恥ずかしくないのかな…」と思ったが、ディズニーランドに行けばネズミの耳をつけて歩くのも許してしまう…あの感覚かな、と勝手に解釈していた。しかしたった二日とは言え、そのバッヂをずっと目にしていると、なんだか愛着がわいてきた。私はとうとうタキシードにつけ、舞台に立ってしまった。
髙田さんに至っては、翌日もつけっぱなしで(しかも二つ)、案の定、松山空港の保安検査場で引っかかった。私は当然、知らない人のふりをした。
今もあのバッヂを見ては、あの日の感動に浸っている。