宮本益光×加藤昌則 デュオリサイタル


2022.2.24 横浜市栄区民文化センター リリスホール

【プログラム】

作曲:加藤昌則 

・落葉(千家元麿 詩)

・魔女の住む街(宮本益光 詩)

・祈りの街(宮本益光 詩)

・城壁となって(宮本益光 詩)

・ちっぽけな(宮本益光 詩)

・詩がある(宮本益光 詩)

・俺らの町の数え歌(宮本益光 詩)

・桜の背丈を追い越して(宮本益光 詩)

・レモン哀歌(高村光太郎 詩)

・彦星哀歌(宮本益光 詩)

「花と鳥のエスキス」より(たかはしけいすけ 詩)

・ぼくの空

・あたらしい日がくるたびに

「名もなき祈り」より

・空に(たかはしけいすけ 詩)

・今、歌をうたうのは(宮本益光 詩)

・もしも歌がなかったら(宮本益光 詩)

【アンコール】

・遠い空の下で(宮本益光 詩)



何とも言えない気持ちになった、特別なコンサートだった。

 

今年3月にCD「シンガーソングライター(加藤昌則歌曲集)」を発売するのだが、プログラムはその収録曲で構成した。そのタイトルは演奏家自らが作詞作曲するという、クラシック界ではあまり類を見ない形を自負し、名付けた。毎年開催している王子ホールでの「王子な午後シリーズ」がその由来でもある。

 

僕らが出会ったときに作曲した作品から最近できたものまで、プログラムはまるで二人の日記帳のように過去を思い起こさせた。

 

しかもホールが「リリス」ということで、これもまた私を感傷的にさせた。このホールは加藤さんの生まれ故郷のホールということもあり、僕らは出来たときからの付き合いで、その思い出は一言では語りつくすことができない。

 

アンコールに用意したのは「遠い空の下で」(宮本益光作詞・加藤昌則作曲)。この作品は私が初めて故郷で開催したリサイタルから生まれたもので、帰りの飛行機の中、加藤さんが「出演してくれた中学生たちにお礼がしたい。曲を創ろう。タイトルは『遠い空の下で』がよくない?」と言ったことから生まれたものだ。

 

リリスで合唱の稽古に明け暮れていた青春のとき、加藤さんが海外留学するということで、稽古後、大船で朝まで飲み明かしたっけ。まだスマートフォンなんてなく、メールがようやく一般化し始めたころで、私は加藤さんとメールをするためにパソコンを買った。そして「遠い空の下で」を書き上げて送ったのだ。

 

海外で新しさに心弾ませている加藤さんは、感傷的な私の思いを打ち砕くように「俺も4番作った」とすごい詩を送りつけてきた。

 

 遠い空の下で 好き勝手に飲んでいた人たちが 束になって吐いた 大きなゲ◯

 

それから数年後、忘れたころにこの曲は出来上がり、私のレパートリーとなった。合唱曲としても全国で演奏されていて、有難い。

 

この曲に入る前のトークで、「私がモーツァルトやベートーヴェンの譜面を読むとき、それは加藤昌則の音楽を通じた目で読むことだ」と言いたかったのだが、私は涙を禁じ得ず、言葉を詰まらせてしまった。すかさず加藤さんがマイクを取って場を繋いだが、その言葉に加藤さんの本音を垣間見ることができたような気がして嬉しかった。

 

二人は普段、あまり話し合わないからね。それでも僕らにしかできない世界があるなあ、と。