宮本益光×東京混声合唱団

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国民的ヒットソングで綴る、真夏のコーラス・エンターテインメント

2022.8.27 杉並公会堂 大ホール

指揮:宮本益光

ピアノ:鈴木慎崇

合唱:東京混声合唱団

【プログラム】

・やさしさに包まれたなら / 編曲:首藤健太郎

・瀬戸の花嫁 / 編曲:首藤健太郎

・木綿のハンカチーフ / 編曲:首藤健太郎

・あずさ2号 / 編曲:首藤健太郎

・なごり雪 / 編曲:北川昇

・夜空ノムコウ / 編曲:首藤健太郎

・未来〜合唱組曲《銀河鉄道999》より

・時代 / 編曲:信長貴富

・恋のバカンス / 編曲:信長貴富

・勝手にシンドバッド / 編曲:首藤健太郎

・秋桜 / 編曲:首藤健太郎

・飾りじゃないのよ涙は / 編曲:首藤健太郎

・瑠璃色の地球 / 編曲:加藤昌則

・上を向いて歩こう / 編曲:信長貴富

・心の瞳 / 編曲:加藤昌則

【アンコール】

・夏の終わりのハーモニー / 編曲:首藤健太郎

・上を向いて歩こう



昨年の夏に体調を崩しオペラを降板したとき「自分はもう舞台に戻れないかもしれない」と本気で悩んだが、「この舞台だけはきっとできる、声が出なくても指揮ならできる」と私の心の支えになったのがこのお仕事だった。

 

東京混声合唱団を私が指揮する!?という恐怖よりも、ほんの少しだけ楽しみが勝ったのでお引き受けしたが、日増しに恐怖が逆転し、本番まで一ヶ月を切ったころには、初めて舞台に立った時よりも緊張を感じていた。

 

オーケストラやオペラのお仕事のとき、指揮者が稽古を取り仕切るわけだが、段取り良く最大限の効果をあげる指揮者と出会うと「ついていきます」という気持ちになる。一方、どんなに良いことを言っても話がしつこかったり、長かったりするとイライラするの、私は!今回の私は稽古を進行する立場でもあるので、さらに緊張が増した。

 

しかしそんな心配は杞憂で、鈴木慎崇さんの煌びやかなピアノ、首藤健太郎さんのツボを心得た編曲、団員の皆様の自主性の高い建設的な参加姿勢、プロフェッショナルな空間が私を勝手に導いてくれた。あれだけ緊張していたのに嘘のように楽しくて、時間があっという間に過ぎた、私は!

 

指揮者と言えば、舞台袖でマネージャーがタオルと水をもって待機していて、カーテンコール前に袖で汗を拭き、水を一口飲んで再び舞台へ戻る…そんな印象があったもので、マネージャーに「それをやりたい、その姿を動画に撮っておきたい」と懇願していたのだが、いざその時が来ると、そんなことはどーでもよくなっていて、私はただただ感動に浸っていた。

 

合唱を愛し、ずっと携わってきた自分にとって、一生忘れられない幸せな思い出ができた。初めて自分のことを「指揮者」とサインに添えた。

 

終わってからもSNSが大盛り上がりしていて、いつもより開く回数が増えたが、数日後には東混の皆さんは次の話題に完全に移行し「ねえ、やっぱりあれは夢だったのかい」という気持ちになった。

 

でも、プロってそうだよね。思い出を糧としながら、自分はまだまだ成長できると信じてさらなる高みを目指す。自分もそうやって舞台をこなしてきたじゃないか。まるで文化祭で完全燃焼した高校生のように、心にポッカリ穴が開いたような気になっていたけれど、自分の道の続き、それも少し新しい続きが見えた気がして今はとてもいい気分。

 

昔買い集めた東混のレコードに久しぶりに針を落としつつ、私の腕は空に図形を描いていた。