詩歌こそわがさきへ



詩歌こそわがさきへ

詩 R. ヘリック / 訳詩 森 亮

曲 宮本益光

 まだほんの少し、わたしには
 書きたいことが残つてゐる。
 それから心なえはて
この世にいとまを告げる。

 

いくら愚図ついてはゐても、
 わたしが此処にとどまるのは
 あつといふ間もない一刻、

それが過ぎればわたしは去る。

 

すべてを打ち倒す「時」よ、
 嘗て世に在つたどの人の
 形見の碑をも

お前は地上に長くは残さない。

 

どれだけ多くの人が地下納骨堂に
 身を横たへて忘れられてゐることか。

(死んだが最後誰が彼等に頭を下げる)
ぽつりぽつり死者たちは腐れてゆく。

 

ごらん、わたしが自分に築く
 この生きた記念碑を。
 ねたみ深い「時」も

これだけは倒すことができない。

 

石の柱を建てたい人は
 建てるがよかろう。

 

詩歌こそわたしの希ひ、
わたしが建てる塔です。

 

(※下線部分は作曲されていません)

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【収録情報】

2023年7月

バリトン:宮本益光

ピアノ:髙田恵子

収録協力:グラフィックデザイナー 髙木龍之介

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【宮本益光コメント】

R. ヘリックの詩に作曲するのはこれが2作品目です。先に作曲した「讃歌 −ミューズの神々に−」同様、森 亮さんの訳詩が美しく、このような詩に触れると「日本人でよかった」と思うほど、日本語の豊かさ、奥深さに魅かれます。「人は死しても良い詩は残り、長き命を有する」という考えは、ヨーロッパの詩にしばしば出てきます。有形の記念碑の脆さ、儚さと、永遠の命を有する詩との対比を凛とした姿勢で綴ったこの詩は、私たち藝術に憧れ創り続ける者に、大きな勇気を与えてくれます。

 

テンポよく跳ね上がるリズムがこの作品の肝です。厳格な詩をこの軽快さの上で語ることは、自らの塔(あららぎ)に誇りを見出した人の喜びでもあります。私がいつかこの世を去るとき、私にも塔となるような作品や演奏を残したいものです。 

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【初演データ】

2023年7月 紀尾井町サロンホール

Bar.宮本益光 Pf.髙田恵子

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